本国際保健医療学会 第35回西日本地方会 (35th JAIH Western Regional Meeting)

大会長挨拶

第35回西日本地方会は,神戸大学にて開催する運びとなりました。大会テーマは「世界中の人々の健康が持続可能であるために」としました。

Portrait of Minato Nakazawa

いま世界では格差が大きな問題とされ,昨年ベストセラーになったピケティ『21世紀の資本』でも,放っておくと格差は拡大することから,政策的にそこに対処することの重要性が示されました。格差には所得格差ばかりではなく,社会格差や健康格差があることは言うまでもありません。SDGs(進捗状況報告)でもGoal 10はさまざまな意味での格差を無くすことですし,本学会の2016年度の久留米大会でも,格差をなくし,誰も取り残されないようにすること(No one left behind)が,多くの発表で強調されていました。

もちろんそれは重要な目標です。ですが,一方では地球の資源には限りがあるのも事実です。地球がどれくらいの人口を支えられるかについては,エコロジカル・フットプリントあるいは環境収容力という考え方で検討されています。エコロジカル・フットプリントを使った予測によれば,もし経済活動のあり方を変えないなら2030年には地球が2個分必要になると指摘されています(例えばGlobal Footprint NetworkというNPOの試算)。多くの環境収容力の推計からのメタアナリシスによれば,世界中の人々が現在の米国の生活水準を享受しようとすると,地球が支えられる人口の推定値は77億人で,その95%信頼区間の下限は6億5000万人に過ぎません(Jeroen and Rietveld, 2004)。既に人口はそのレベルを超えています。

したがって,世界中の人々の生活水準を現在の最高水準に合わせて引き揚げることは不可能です。少なくとも持続可能ではありません。ではどのレベルの生活までなら可能なのでしょうか? どのレベルの健康水準なら持続可能なのでしょうか? エネルギーや資源利用をセーブしながら生活水準や健康水準を上げるようなアイディアはないのでしょうか? つい目の前にある問題に対処するだけで手一杯になりがちな中でも,我々はこの点までも視野に入れるべきだと思います。

日頃国際保健医療の現場で奮闘されている皆様にとっても,これから活動しようと考えている学生にとっても,持続可能な健康とは何なのかという点にいったん立ち返って考えてみることは有意義ではないかと思います。是非奮ってご参加ください。

神戸大学大学院保健学研究科 教授 中澤 港
29th December 2016


References

  • Jeroen CJMVDB, Rietveld P (2004) Reconsidering the Limits to World Population: Meta-analysis and Meta-prediction. BioScience, 54(3): 195-204.[link]